子どもたちとともに数学文化をつくろう
   ――――教師にとっても数学再発見であるように!
               増島高教(由由の森学園・和光学園講師)

 数教協高校集会は回を重ねて15回目となります.75年の早春に底冷えする
京都・聖護院で第1回集会を開いてから30年近くなります.この間の集会で私
たちはつぎのような考えをつくり上げてきました.
 *点数や順位など数学の外部にある目標・動機に促された学習ではなく、
 知的好奇心そのものにねざす数学、世界を豊に捉える「眼」となる数学を.
 *「いつでも何かの準備であるような」数学授業ではなく「そのときどき
 学んでいること自体が目的であるような」数学授業、今日の授業が今日の
 充実であるような授業を.                    .
 その中身をつくる仕事にいまこそ本格的に踏み出し、「21世紀に生きる市
民の共通教養となる」数学のイメ−ジを具体的に描き出していきましょう.
 私は高校生を
 *高校生の思考は抽象的論理的な発展方向と具体的現実的なものの中に分
 け入ることとの両極の間を幅広く行き来することができる
と捉える見方を手がかりに、一歩進んで、リアルなテ−マに分け入り「それ
を解決すべく取り組むことが数学(数学文化)を生み出す」ことになるよう
な教材・授業づくりを構想したいのです.そのための観点をいくつかあげて
みると、
 *なるべく予備知識なしにストレ−トに事の本質を考えることになるよう
 な教材・授業づくり
 *「本質的なテ−マ」に直結するという点では「高校生の眼で小学校の基
 礎的基本的な教材を捉えなおす」という観点
 *「数学を生み出す」という点では、レベルを下げるのではなくむしろ数
 学的な槻念形成を妥協せずにきちんと行う(それはしかし高踏的上意下達
 的に数学を語ることではなく、子どもの思考の自然で必然的な発展にそく
 して子どもとともに数学的な概念をつくり上げることであり、多少とも教
 師にとっての「数学の学びなおし」「数学再発見」をともなう)
などがあるでしょう.
 いくつかの例をあげてみましょう

 「量の変化の見方」

@差でみる・比でみる・1当りにする
A変化を捉える眼としての比例. 倍々による定義.
B大きすぎる値・デ−夕を手元に引き付ける眼としての対数目盛
  たとえば自然史・人類史年表づくりをしてみる/累乗・累乗根の意味と指
 数法則/フェヒナ−の法則.
C片対数・両対数目盛での比例とは?
  実際のデ−タの例(「絵とき・ゾウの時間とネズミの時間」から/人口増
 加/バクテリアの繁殖/社会的な量/‥‥)

 「数列を関数として捉える」

@漸化式は差分方程式として捉えれば将来予測の武器となる.
Aネコがいるときのネズミ算(伊藤さんの「数学教室」連載・70年代初の山
田さんの実践・増島ほかの実践など)は典型例ではないか?
B補間法

 「微積分」

@伊豆大島の体積を求める(堀江千代子さん)という実践がある.
 子どもの考えを数学的にどう発展させるか?十分に積分の授業の発端にな
りうる.富士山ではできないか?1883年の大噴火で吹き飛んだクラカタウ島
の体積(13km3という.福音館の絵本「生物の消えた島」参照)を計算で確か
めるには?
Aスピ−ド違反論議(小沢健一「雨つぷでニュ−トンは語れるか」)を微分
の導入に.
B「微積分の基本定理」を感動的に伝える必要がある.「積の和としての定
積分が逆微分としての原始関数の差によって求められる」「成り立ちが全く
違う両者が一体化する」ことの不思議さを量的な説明ときちんとした証明の
両面から伝えたい.

 「三角比」

@地球の大きさを測る・月までの距離を測る・地球と太陽の距離を測る.そ
のアイディアの歴史的な発展を追体験する.ぜひ実測を.
A太陽の大きさを謝る.
B「北限の富士」を確かめる(アイディアは「数学教室」01年3月号小松朋
子実践記録を参照)
C古代航法のこと.          (その他いろいろあります.)