絵本の部屋

12.「いちばんのともだち」を見て

矢野 衿日(文・絵)さんの作品で、発行(矢野陽三、0880-23-0351)印刷(共和印刷)から自費出版されています。
パリの街のアンティークの店先に並べられていた2匹の犬のブローチが主人公です。ある日お客さんのブローチとしてブラウスにつけられ、ヨーロッパを一周して片田舎の家で目を覚ましたブローチは、いちばんの仲良しだった相棒のブローチがいないことに気づく。
最後はハッピーエンドにつながるが、ヨーロッパの風景や登場してくる人形などがエキゾチックな画風で描かれている。作者の夢見る思いが噴出している絵である。
なんとか購入できる絵本になることを期待している。当面は発行者に問い合わせていただくしかない。

11.「ひなたカフェ」を見て

矢野 衿日(文・絵)さんの作品で、発行(矢野陽三、0880-23-0351)印刷(共和印刷)から自費出版されています。
2010年7月から亡くなる2015年4月まで「ひなたカフェ」のブログにエッセーと写真を掲載していた矢野さんは、尾道市向島の出身で尾道の文化に浸って夢見ながら少女期・青春期を過ごした方でしたが、縁があり四万十町に嫁ぎ3人の子供を立派に成人させた後は、田舎の片隅でカフェを開きながら人形制作などに打ち込んできました。
何回か訪ねる中で、個性的な人形に接して、いつか個展を開かれると素敵だと思っていましたが、その矢先に病気で亡くなってしまいました。残念でなりません。書き残した絵本の原稿を元に、夫である陽三氏が絵本に仕立て、先日自費出版されましたので、ここで紹介したいと思います。
絵本はここに紹介する「ひなたカフェ」と次に紹介する「いちばんのともだち」です。
「ひなたカフェ」は、ブログを見ていただいた方はわかると思いますが、彼女がここにいて感じたことの四季の思いを文章と絵に込めて作り上げています。私としては、最後の文とカフェ全体の家の絵が印象的で忘れることができません。

10.「クマよ」を見て

星野 道夫(文・写真)の作品で、福音館書店から発行されています。
彼の北極海周辺でのクマに対する愛情が溢れている。すぐそばで触りたくなる、寝息を聞きたくなる、そういう思いが彼をクマに近づけ過ぎたのだろう。生きて入れば、もっともっと素敵な大自然の写真やクマの生態が撮影できたと思う。愛しすぎるとすぐそばにいたくなる気持ちは分からなくもない。
妻が、小学校3・4年生への読み聞かせに使うそうだが、北極海周辺の大自然の雄大さとそれを守っていく大切さを伝えて欲しい。

9.「ビロードのうさぎ」を見て

マージェリィ・W・ビアンコ(作)、酒井 駒子(絵・訳)の作品で、ブロンズ新社から発行されています。
クリスマスの靴下に入ったビロードのうさぎが、ぼうやの前に姿を現したときには、少しだけ可愛いがられましたが、そのあと、おもちゃの棚の隅にしまわれたときから、ゼンマイ仕掛けの人形と比べて、布で出来ただけのうさぎは劣等感のかたまりでした。そこへボロボロになった馬のおもちゃがやってきて、「子どもの本当の友達になって、心から大切にされたとき、おもちゃは本物になるのだよ」と教えてくれました。
その後、偶然から、ぼうやのそばで寝起きを共にするようになりました。それゆえ、ビロードのうさぎは幸せな毎日をすごしました。あるとき、森で本物のうさぎに出会ってから、本物を意識するようになったのです。
段々薄汚れてきて、遂にぼうやから離されるときが来ました。そして、ゴミとして捨てられたとき、涙の中から妖精があらわれ、本物として可愛がられたおもちゃは、最後の願いをきいてくれ、本物のうさぎにしてくれたのです。

子ども達の周りにあるおもちゃに、大切に気持ちを込めて接することの出来るぼうやになることを期待しています。

8.「テッドおじさんとあたしクラリス・ビーン」を見て

ローレン・チャイルド(作)、木坂 涼(訳)の作品で、フレーベル館から発行されています。
消防士のおじさんテッドが、主人公のクラリス・ビーン(あたし)の家に一時的なベビーシッターとしてやってきたところから騒動が起こります。絵本一杯にいろいろな絵と登場人物が描かれていて、セリフもあちこちに書かれているので、まるで宝探しのような感覚で読んでいくことになりました。つまり、幼い子や読み聞かせには向いておらず、字が読めるようになった子が、あちこち探しながら読んでいくといった作りになっています。話の内容も小学生中学年向きに作られているし、絵もカラフルで見ただけで楽しげになる感じがします。
4人の子どもとお爺さんを預かったテッドおじさん(お母さんの弟さん)の活躍を見てみましょう。おじさんの合言葉は「いかすぜベイビー」です。

7.「すてきな 三にんぐみ」を見て

トミー アンゲラー(作)、今江 祥智(よしとも、訳)の作品で、偕成社から発行されています。
黒いマントと黒い帽子をかぶった三人の泥棒が、夜な夜な高原に出て、そこを通る馬車を襲い、金銀財宝を奪っていました。隠れ家には宝物の山が出来ていましたが、ただ貯めるだけでした。
そこへ、一人ぼっちの孤児のティファニーちゃんの乗った馬車が通りましたので、ティファニーちゃんは、この三人の黒マントの人々が気に入り、隠れ家で一緒に暮らすことになりました。ある日、宝物の山を見つけたティファニーちゃんは、この財宝の使い道を聞いたところ、別にないと言うことで、孤児を集めて楽しく暮らすことにしました。あちこちから孤児がやってきて、お城も買って、子ども達は赤いマントと赤い帽子を着て元気に暮らしました。時が経ち、そのお城の周りには、大人になった孤児達の家庭が次々に出来て、大きな街になりました。そこには、3つの大きな塔が建っています。

6.「やせいぬ ニードル」を見て

清水 真裕(まひろ、脚本)、西村 敏雄(画)の作品(紙芝居風)で、童心社から発行されています。
やせっぽちな犬のニードルが、食べ物を探して街を彷徨いていると、町外れにある食堂のコックのヌードルさんに出会いました。たらふく麺を食べさせてもらったお礼に、ニードルは良いアイデアを思いつきました。その結果、たくさんのお客さんが来るようになり、お店の名前も「ニードルとヌードルのおみせ」とつけました。良かったですね。ニードルはもうやせっぽちではありません。

5.「ハルばぁちゃんの手」を見て

山中 恒(ひさし、作)、木下 晋(すすむ、絵)の作品で、福音館書店から発行されています。
戦争で親を亡くした少女のハルが、一人で魚取りの手伝いや、藁草履づくりをしながら、兄弟を養い成長させていくストーリーです。彼女の手のホクロ(手が器用になると言われている)が縁で、夫と再会し結婚します。二人で、ケーキ屋をやりながら、子供を育て上げると言う話ですが、これだけだと昭和期を生き抜いたおばあちゃん世代に良くある話です。
それを、木下晋は写実的な絵本として完成させていますが、どうしてこうまでも写実的にしたのか考えてみました。絵本を見る子供達に、①そう言う時代の雰囲気を伝えたかった②黒白の陰影から香る「生の暖かさ」と「哀愁」③「盆踊り」の姿に味わいを込めている、などを表現したかったのかもしれません。
読んで聞かせる絵本ではなく、見て味わう絵本なのでしょう。こういうジャンルが絵本にもあるのですね。

4.「ねずみとくじら」を見て

ウィリアム・スタイグ(作・絵)、せた ていじ(訳)の作品で、評論社から発行されています。
陸に住む小さなネズミ(名前をエーモス)と大海原に住む大きなクジラ(名前をボーリス)の物語です。海の香りとまだ見ぬ海の向こうに憧れていたエーモスは、一大決心をして船を作り始めました。航海術も勉強しました。長旅に備えて、持っていくものも揃え、9月6日の高潮の時に船出をしました。
最初は船酔いもしましたが、直ぐ慣れて、夢のような日々を過ごしました。夜には満天の星が降り注ぎ、海のあちこちでクジラの潮吹きが見られ、目を見張る毎日でした。ところが、ちょっとした油断から海に落ちてしまいます。遠ざかる船に取り残されて波の間に漂うエーモスは、寒さと疲労から死の恐怖を味わいます。
そこへ偶然、ボーリスが顔を出して助けてくれました。アフリカの象牙海岸でクジラの大会があるので、そこまでエーモスを背中に乗せ運んでくれることになりました。小さいネズミと大きなクジラの楽しい会話が友情を深めていきました。ボーリスにとっても陸の生活に憧れを持っていたので、話は大いに弾みました。1週間後、無事に陸に到着しました。
長い年月の後、今度はクジラのボーリスに災難が降りかかってきます。今度は小さなネズミのエーモスが恩返しをします。ここから先は、絵本を見て下さいね。
私にとって、この絵本の前半にあたる「エーモスが船を作り船出していく場面」が、現在やっているログハウスづくりと重なってしまいます。子供の頃に見る絵本に「まだ見ぬ世界に憧れる」と言う種があることが見て取れて感心してしまいました。

3.「手ぶくろを買いに」を見て

新美南吉(作)、黒井健(絵)、岡本明(装丁)の作品で、偕成社から発行されています。
冬の森に住む狐の親子の物語です。母狐は坊や子狐の手にシモヤケが出来ては可哀想だからと手袋を買ってやろうと思いました。2人で町の近くまで出かけますが、母親はかつて人間に酷い目にあったので、「坊や 一人で町に行ってらっしゃい。気をつけてね。」と言い聞かせ行かせます。そのために、子どもの片方の手を人間の手に変え、2つの白銅貨を握らせます。
町に来た子狐は、帽子屋さんの前で、少し戸を開けて「手袋下さい。」と店のおじいさんに言いました。狐であることを悟られないように、ほんの少し開いた隙間からお金を持った手を差し出しますが、うっかり人間の手の方ではない狐の手の方を出してしまいました。
しかし、店のおじいさんはお金が本物だと確認すると、手袋を渡してくれました。狐であっても酷い目にあわせる人間ばかりではないことを、子狐は理解しました。帰り道、家の中から人間の坊やが母親に甘えている声を聞いて、急に母狐が思い出されて、人間も狐も母親に甘えるのは一緒だと思いました。そして、飛んで母狐のもとに帰りました。
自然の中の暮らしは、厳しい環境の中にも暖かさがあふれていることを感じさせる美しい絵本でした。特に書き出しで、初めて雪を見る子狐の描写の場面「枝から白い絹糸のような雪がこぼれていました。」は、情景を思い出させる美しい文章だと思います。

2.「イングリッシュ ローズィズ」を見て

この絵本は、アメリカの歌手のマドンナが作った第1作目の絵本です。絵を描いたジェフリー・フルビマーリが先日殴られたというニュースが入ってきましたが、人騒がせなものになってしまいました。
集英社から発行されていますが、翻訳の江國香織さんの訳も分かりやすいし、フルビマーリの絵もとても綺麗に描かれているので、マドンナの意図する内容が上手に表現されています。
ビーナを見た目で判断し無視していた仲良し少女グループ「イングリッシュ ローズィズ」の4人が、母親と夢の中の妖精に言われて、孤高の美少女ビーナの家を訪ね、その真実を知る。そこで、仲良しになった5人は、町で噂の美少女グループ「イングリッシュ ローズィズ」になっていくという話です。その「真実」をここで書いては絵本の良さが消えるので、知りたい人は買って読んで下さいね。子ども達に読んで聞かせても綺麗な絵とともに興味を引くと思います。

1.「たかこ」を見て

この絵本は、友人達と月に一度、久喜の吉田屋で会食している「蕎麦の会」のメンバーである清水さんから、紹介された絵本です。彼の娘さんである大学生の清水真裕(まひろ)さんの処女作だというので、購入して読んでみたら面白いこと、今までにない絵本でした。平安時代から抜け出してきたような「たかこ」が、現在の小学校に転校してくるという書き出しです。絵を担当した青山友美さんの綺麗な絵も相まって、大変興味を持って読むことが出来ました。
私の妻が近所の小学校で、絵本を使って「読み聞かせ」をしているので、この絵本を紹介したところ、さっそく読んで聞かしたそうです。子ども達は面白い言葉使いに興味を持ったらしく見入っていたそうです。大評判でした。