高校新指導要領の批判検討(数学)

                         1999.7.3
                        武田利一

1.科目構成の変化

 現行の科目は数学Tが必修で、下表のようであるが、改訂後は数学基礎と数学Tが
選択必修となり、下表のようになる。
  ┌───┬──────┬─────┬──────┐
  │現行 │ 標準単位数│改訂後  │ 標準単位数│
  ├───┼──────┼─────┼──────┤
  │数学T│ 必修 4 │数学基礎 │選択必修 2│
  │数学U│    3 │数学T  │選択必修 3│
  │数学V│    3 │数学U  │     4│
  │数学A│    2 │数学V  │     3│
  │数学B│    2 │数学A  │     2│
  │数学C│    2 │数学B  │     2│
  │   │      │数学C  │     2│
  └───┴──────┴─────┴──────┘

2.内容の要点

 @「数学基礎」は3つのテーマを扱う。
     ・数学と人間の活動
     ・社会生活における数理的な考察
     ・身近な統計
   身近な事例を取り上げ、生徒が主体的に学習できるようにするが、理論的な考
  察には深入りしないので、数学を学ぶというより数学のお話を聞くという形にな
  る。そういう意味では、「低学力」や「授業離れ」の生徒にとっては学習しやす
  い科目となろう。ただ、この科目の先が数学Aしかないので、国民的な共通教養
  としての数学の学力をつける観点からいうと切り捨てられた感はある。
   一方、数学T以降の内容が相変わらず形式的な編成なので、その点からいうと、
  数学基礎は目標にある「数学と人間との関わりや、社会生活における数学が果た
  している役割を理解……」が有意義な自主編成を産み出すチャンスになる可能性
  もある。

 A「数学T」は3つのテーマを扱う。
     ・方程式と不等式
     ・二次関数
     ・図形と計量(三角比)
   現行の数学Aにあった「数と式」が数学Tに復活したと言ってよいだろう。高
  校数学の入門期の数学砂漠からの解放を唱って、「数と式」は数学Aに移ったは
  ずなのに、現場の実態(数学Tの前に数学Aの「数と式」を先に学ぶ)に追随す
  るようにして、またもや復活した。これにともない、「方程式と不等式」の理解
  が、「二次関数」のグラフ無しで展開するため再びできない生徒が急増するだろ
  う。
   また、この数学Tは「個数の処理」と「確率」がはずされたので、現実的なも
  のとのむすびつきがいっそう弱くなり、抽象的な数学の低いレベルのものだけに
  なっている。この数学Tだけで履修を終わる生徒にとって国民的な共通教養とし
  ての数学というにはおそまつとしかいいようもない。

 B「数学U」は4つのテーマを扱う。
     ・式と証明、高次方程式
     ・図形と方程式
     ・いろいろな関数
     ・微分積分の考え
   現行より標準単位数が増加した。現行の「関数の値の変化」から「微分積分の
  考え」と名称に微積分がもどってきた。今までのような難しい微積分ではなく、
  意味の理解できるような微積分になるよう自主編成が望まれる。国民的な共通教
  養としての数学にふさわしい微積分の展開が大切である。

 C「数学V」は3つのテーマを扱う。
     ・極限
     ・微分法
     ・積分法
   いま、数学Vをきちんと学ぶ高校生は全体の10%未満となっている。21世
  紀は人類的地球的規模のさまざまな課題が押し寄せているので、数学的にも質の
  高い素養が求められている。

 D「数学A」は3つのテーマを扱う。
     ・平面図形
     ・集合と論理
     ・場合の数と確率
   中学校から移行される図形領域の内容も「平面図形」には含まれる。「確率」
  の問題は、意味(場面)を把握し、数学の問題として問題設定をする総合的なち
  からを養うのによい分野なので、数学Tから数学Aに移ったのは残念である。

 E「数学B」は4つのテーマを扱う。
     ・数列
     ・ベクトル
     ・統計とコンピュータ
     ・数値計算とコンピュータ
   コンピュータを扱う科目は数学では、数学Bだけになってしまった。現行の数
  学と比べると様変わりである。教科「情報」ができたせいでもあるが、数学Bで
  の扱いは現実的には困難となるだろう。パソコン室が1つしかない現状では、「情
  報」と授業がかち合い実施が困難となるからである。また、数学科の教員が教科
  「情報」の指導をする羽目にもなりそうで、多難な時代が来そうである。

 F「数学C」は4つのテーマを扱う。
     ・行列とその応用
     ・式と曲線
     ・確率分布
     ・統計処理
   数学Bと数学Cは現行同様、学習内容を選択して履修する科目である。

3.最後に
   数学教育を、国民的な共通教養としての数学の学びの場として位置づけ、現場
  の一人一人の工夫した自主編成をもとに、その目標を達成できるように努力し交
  流していきましょう。