質問<688>2001/11/3
from=かな
「あみだくじ」


今、私の学校では数学の研究レポートの提出の期限が近づいているのですが、
どうもわからないので教えてください。
私は、あみだくじについて調べたいのですが、いろいろ試した結果、
「縦の棒と同じ数(倍数)だけ横棒をそれぞれの間に横棒が隣同士つながら
ないように交互に入れると、出発した縦棒の下に行き着く」となりました。
これを証明したいのですが、どうしたらいいのでしょうか?
期限が近づいてきているのでなるべく早く教えていただけると助かります。
よろしくお願いします。


お便り2001/11/13
from=CharlieBrown


「縦の棒と同じ数(倍数)だけ横棒をそれぞれの間に横棒が隣同士つな
がらないように交互に入れると、出発した縦棒の下に行き着く」

この命題は正しいようです。
証明するのは僕の能力の限界を超えているので、
ここではこの命題の背後に何が隠れているのかを見るだけに留めさせて
下さい。

縦棒の数をnとします。

はじめに n=2 の場合を考えます。
 A B (A,B)
 |-|
 | | (B,A)
 |-|
 A B (A,B)
となり、2本の横棒により、確かに出発した縦棒の下に行き着きます。
2本で同じ所に行き着けば、
倍の4本でも、3倍の6本でも同じ所に行き着くのは明らかです。
あみだ中の横棒は文字の交換を表しますので、
あみだの右のように文字を( )でくくると、
2本の横棒により、2回の文字交換が起こり、元に戻ったことになります。

次に n=3 の場合を考えると、横棒が交互に入るという要請から、
次の2通りのあみだを構成できます。
 A B C (A,B,C)  A B C (A,B,C)
 |-| |          | |-|
 | | | (B,A,C)  | | | (A,C,B)
 | |-|          |-| |
 | | | (B,C,A)  | | | (C,A,B)
 |-| |          | |-|
 | | | (C,B,A)  | | | (C,B,A)
 | |-|          |-| |
 | | | (C,A,B)  | | | (B,C,A)
 |-| |          | |-|
 | | | (A,C,B)  | | | (B,A,C)
 | |-|          |-| |
 A B C (A,B,C)  A B C (A,B,C)
確かに3本ずつ横棒を交互に入れると、6回の文字交換の後に元に戻ります。
3本で同じ所に行き着けば、
倍の6本でも、3倍の9本でも同じ所に行き着くのは明らかです。

このように、あみだを文字交換と捉えると、
次のようにして問題を一般化できます。
この一般化は「置換」と呼ばれるもので、大学の線形代数で扱いますが、
高校生でも理解できるように説明します。

n文字の異なる文字を1列に並べたもの(これを順列といいました)を、
Pnと表します。
例えば P3 には、(A,B,C)の他、(A,C,B)など全部で3!=6種類あります。

また、順列Pnの左からk番目の文字をその右隣の文字と交換する操作を、
σkと表します。もちろん、k=1,2,…,n-1です。
例えば、
σ1(A,B) = (B,A)
σ1(A,B,C) = (B,A,C) σ2(A,B,C) = (A,C,B)
です。

続けて何度も操作する場合、その操作を左に順に掛け合わせて表せます。
例えば、
σ1σ2(A,B,C) = σ1(A,C,B) = (C,A,B)
です。
このσの掛け算操作は交換できません。
例えば、σ1σ2(A,B,C) と σ2σ1(A,B,C) は異なる順列になることが、
簡単に確かめられます。
この辺りは行列の積の交換の性質とよく似ています。

交互に横棒を入れることは、
このσ1とσ2が交互に掛けられることに対応します。
そのため、n=3 では、命題は
 σ1σ2σ1σ2σ1σ2(A,B,C)=(A,B,C)
 σ2σ1σ2σ1σ2σ1(A,B,C)=(A,B,C)
であることを述べています。
この掛け算は累乗を用いると簡単に表せて、それぞれ
 {σ1σ2}^3(A,B,C)=(A,B,C)
 {σ2σ1}^3(A,B,C)=(A,B,C)
となります。

さらに、何も文字を入れ替えない操作を E と表します。
これは行列での単位行列に対応するもので、
 E(A,B,C) = (A,B,C)
です。
このとき、命題は n=3 で
 {σ1σ2}^3 = E、{σ2σ1}^3 = E
となります。

一般のnにおいては、
「順列Pnにおいて、σ1からσ(n-1)をどのような順番で掛けようとも、
 {σi…σk}^n = E となる。」
と命題を数学的に表すことができます。

文字交換σはn次の正方行列で表すことができます。
n=2において、
  (0 1)
σ1=(   )
  (1 0)
n=3において、
   (0 1 0)    (1 0 0)
σ1=(1 0 0) σ2=(0 0 1)
   (0 0 1)    (0 1 0)
と置くと、順列Pnをn次元縦ベクトルで表して計算可能です。
例えばn=3において、
  (A) (0 1 0)(A) (B)
σ1(B)=(1 0 0)(B)=(A)
  (C) (0 0 1)(C) (C)
となります。

この行列表現を用いると、命題は
「行列σ1からσ(n-1)をどのような順番で掛けようとも、
 そのn乗は単位行列Eになる。」
と改まります。

これらの命題は、n=4までの手計算で成立を確認しましたが、
一般のnで成立することの証明までは手におえませんでした。

n=3 の場合について、もう少し説明を加えると、
     (0 1 0)(1 0 0) (0 0 1)
σ1σ2=(1 0 0)(0 0 1)=(1 0 0)
     (0 0 1)(0 1 0) (0 1 0)
を改めてAと置くと、
     (1 0 0)(0 1 0) (0 1 0)
σ2σ1=(0 0 1)(1 0 0)=(0 0 1)
     (0 1 0)(0 0 1) (1 0 0)
は、A^2になっています。
この2つの行列と、3次の単位行列Eでできる集合{E,A,A^2}は、
掛け算に関して閉じています。
つまり、どの2つを選んで掛け算を施しても、
計算結果は必ずもとの集合のどれかの要素になります。
このような集合は、大学では「巡回群」と呼ばれます。

おそらく、このあみだの問題は、
「n次の巡回群の任意の要素のn乗は単位元になる」
という命題に翻訳されるのでしょうが、
これ以上の考察は、大学の数学の範囲になるでしょう。