質問<2239>2005/3/21
from=nonkaru
「代数学の問題」


 すみませんが教えてください。閉じているの意味がわかりません。

 ① A={1,-1,i,-i}は乗法と除法に関して閉じていることを確かめよ。

 ② 4数から成る集合Bが乗法と除法に関して閉じていれば,B=Aであることを
   証明せよ。

★希望★完全解答★

お便り2005/3/22
from=KINO


(1)
集合のふたつの要素 a,b から新しいもの c を作る演算(操作)を * と書くこと
にします。
式で書くと a*b=c という関係が成り立つ状況を考えることになります。
この関係式は,たとえば,* が + (加法=ふたつの数を足し合わせる演算)だったら,
1+2=3 といった式に相当し,
* が x (乗法=ふたつの数を掛け合わせる演算)だったら 2x3=6 のような式に相当
します。

ある集合 A が「演算 * に関して閉じている」とは,A の任意のふたつの要素 a, b 
に演算 * を施して a*b を作っても,その結果がやはり A の元になっていることを
言います。

というわけで,最初の問いは 1, -1, i, -i の4つから任意に2つを選んだ数について
乗法,除法を行った結果は必ず 1, -1, i, -i のどれかにしかならないことを,
全ての場合について確認すればよいと思います。
なお,2つを選ぶときには重複を込めてよいので,10 通りの選び方について,乗法と
除法を調べ上げなければならないので少し手間がかかります。

(2)
集合 B の要素を仮に {a,b,c,d} とおいたとき,
{a,b,c,d}={1,-1,i,-i} とならなければならないことを示せばよいです。
その際,問題の意図を考えると「4数」というのは「4つの異なる複素数」と解釈すべ
きでしょう。
(複素数でなく実数だとすると,要求を満たす集合は存在しません。)
余談ですが,要素が1つだけなら {1},要素が2つならば{1,-1} が「乗法,除法の
いずれに関しても閉じている集合」になります。

それでは,解答の指針(というよりも解答そのもの)を述べましょう。
まず,B が除法に関して閉じている,ということは,どの要素を用いても割り算が
可能なことが大前提ですので,B は 0 を含んでいません。
そして,B の要素のひとつを b とおくと,B が除法に関して閉じていることから
 b÷b=1 も B に含まれていなければなりません。
これで B の要素のひとつが 1 であることがわかりました。
では,b を 1 とは異なる B の要素のひとつとします。
B が乗法に関して閉じていることから,b, b^2, b^3, ..., b^n, ... は全て B に
含まれていなければなりません。
もしもこれら全てが相異なる場合,すなわちふたつの異なる自然数 m, n に対し,
常に b^m≠b^n が成り立つとすると,
B の要素が無限個になってしまい,B が4つの数からなるという仮定に反します。
よって b^m=b^n が成り立つような相異なる自然数の組 (m,n) があります。
便宜上 m>n として b^n でこの等式の両辺を割る(b≠0 なので b^n≠0 です!)
と b^(m-n)=1 が成り立つことになります。
つまり,b^k=1 となるような自然数 k が必ず存在します。この性質をみたす
自然数 k はたくさんあります。
なぜなら,b^k=1 ならば b^(2k)=b^(3k)=...=1 となって,k の倍数は全て同じ性質
をみたすからです。
そこで,このような自然数のうち最小のものを改めて k と書くことにします。
そして,このとき「b は k 位の数である」と言い,k を b の「位数」と呼ぶこと
にしましょう。
(この用語は一般的に流布しているかどうかは知りませんのでご注意下さい。)
ここで,b≠1 を仮定していますので,k≧2 であることに注意しましょう。
次に B の 1 とは異なる3つの数の位数はいずれも必ず4以下であることを示します。
再び b∈B かつ b≠1 を仮定します。b の位数を k とします。
先に注意したように k≧2 であることは確かですが,k の最大値を調べるため,
k≧3 と仮定します。
このとき,1, b, b^2, ..., b^(k-1) という k 個の数は全て互いに異なります。
もしそうでないならば,例えば p<q, 1≦p≦k-1, 1≦q≦k-1 なるふたつの
自然数 p, q で b^p=b^q をみたすものがあったとすると,
1=b^(q-p) となり,1≦q-p≦k-2<k より,k よりも小さい自然数 r(=q-p) 
で b^r=1 となることになり,k がこのような性質を
みたす自然数のうちで最小のものであるという仮定に反してしまうからです。
というわけで,これらの数の個数は 4 個を超えてはいけません。
したがって k≦4 でなければなりません。
以上から,k=2, 3, 4 という可能性があることがわかりました。
このことから,B は
    1位 の数 1 を必ず含み,
残りの数としては
    2位 の数 -1,
    3位 の数 w, w^2 (w, w^2 は z^3=1 の虚数解,特に z^2+z+1=0 の2解),
    4位 の数 ±i
のうちのいずれか 3 つを含みます。
実は,3位の数 w, w^2 について w^2=1/w という関係がありますので,
どちらかが B に含まれるともう一方も B に含まれなければなりません。
4位の数 ±i についても -i=1/i より,どちらかが B に含まれれば
他方も B に含まれることになります。
したがって,w と i が同時に B の要素であるとすると,1, w, w^2, ±i は
いずれも互いに異なるため,
B は最低でも 5 つの要素を含むことになってしまい,問題の条件に合いません。
w も i も含まないとすると,含ませうるのは -1 だけになってしまい,要素の個数が
 4 つよりも少なくなってしまいます。
ゆえに,B は w か i のどちらか一方のみを必ず含むはずです。どちらの可能性が
あるのかを次に調べてみましょう。
w∈B の場合,1, w, w^2 の3つはもう決まりですので,残りのひとつは -1 しか
ありません。 
しかし,(-1)xw=-w については,
  (-w)^2=w^2≠1, (-w)^3=-w^3=-1≠1,(-w)^4=w≠1, (-w)^5=-w^2≠1, (-w)^6=1
より,-w は6位の数ですので B を構成する数の位数が4以下でなければならないと
いう,上で示した事実にそぐいません。
したがって B は w を含みえず,代わりに i を含むしかありません。
このときもやはり 1, ±i だけでは個数が足りませんので,-1 も加えて4つに
しますと,前問で示したように {±1, ±i} はちゃんと乗法と除法に関して
閉じています。
以上より,B=A が従います。

以下は蛇足です。
結局,B の要素は方程式 z^4=1 の解に限られることになり,この方程式の解は
ちょうど ±1, ±i の4つしかなく,
この4数で作った集合が乗法と除法に関して閉じていることも確認済みなので,
B=A を結論することができました。
では n 個の数で構成された乗法と除法に関して閉じている集合を求めよ,
と問題を一般化したらどうなるでしょうか。
おそらく,z^n=1 の n 個の解で構成された集合が答えではないかと思われます。
なお,z^n=1 の解の位数は必ず n の約数になるようにも思えます。