質問<2333>2005/5/8
from=んち
「微分」


a,bは与えられた定数でabキ0とするとき
d/dx{e^(ax)(Acosbx+Bsinbx)}=e^(ax)cosbx
となるように定数A,Bの値を求めよ。

★希望★完全解答★

お便り2005/5/11
from=亀田馬志


このテの計算問題って結構ツマんないんですよ(笑)。他の回答者方々の関わった問題
見てると結構高度な事さりげなく書いちゃうようなお方が多いんで(笑)、ワリとこの
テの『単純な計算問題』てのは後回しにされる傾向があるようです(笑)。

ってなワケで『計算問題』としてはどーって事ない設問なんですが、今回は『余談中
心』に書いていきたいと思います。ってか僕いっつも『余談ばっか』なんですが
(苦笑)。根が不真面目な人間なんで許してください(笑)。

僕等少しでも大学の数学に関わったことある人間はこのテの問題を見たトキ、大体
次の二つのパースペクティヴが見えます。

1)正しく微分できますか?

まあ、コレはいいですよね。これは『問題としては』当然の観点なんで、まあ当た
り前です。コレに関しては『ワザと』後述します。

2)大学で習う微分方程式への準備演習

実際この②番の『薫り』が特にするんですよね。と言うのも、この問題に於ける

・e^(ax)(Acosbx+Bsinbx)

ってのは『良く見かける』ある微分方程式の解だからです。今回はその視点で話を
進めていきます。
(手前味噌ですが、微分方程式に関しては質問<2274>と質問<2293>を
参照して下さい)

さて、いくつかの『特徴的なカタチの』微分方程式には名前が付いています。ここ
で言う『特徴的』ってのは実は数学的な意味での『特徴』ではありません。数学的
には『何て事の無い』、つまり特に特徴があるワケでは無いのですが、物理に於い
ては『良く見かける』方程式、ただそれだけです。
ところが工学系の教科書であるとか、一部の数学の本では『物理上の通称』っての
を採用して頂いてるようです。つまり厳密な意味での『数学的な定義』では無いん
ですが、数学者、ってのは心が広いのか、物理に気を遣ってくれてるんでしょう(笑)。
とかたまには持ち上げておかないと(笑)。
ここからは『同次型』で取りあえず書いていきますが、例えば、fをtの関数として
ωを正の定数とすると、次の微分方程式

・f"+(ω^2)f=0・・・①

を特に通称『単振動型の方程式』と呼んだりします。と言うのも①の一般解はa、bを
共に積分定数として、

・f=acosωt+bsinωt・・・②

で書き表せるからです。①の一般解は『必ず』②のカタチになります。(通常高校
物理で習う“単振動”ではx=Asin(ωt-δ)とかx=Acos(ωt+δ)とか習いますが、
加法定理を用いれば②式と同値である、と気付くハズです)
同様に、次のカタチの微分方程式があります。今度はλも正の定数として、

・f"+2λf'+(λ^2+ω^2)f=0・・・③

で表されます。これを特に『減衰振動型の方程式』とか呼んだりします。今『とか』
と言ったのは、先ほども申し上げた通り、『数学上での厳密な定義』では無いから
です。あくまで『物理で良く見かける』方程式のカタチなんです。
この③式の一般解が

・f=e^(-λt)(acosωt+bsinωt)・・・④

になります。この④の解イイでしょうか?問題文の

・e^(ax)(Acosbx+Bsinbx)

ってのと基本的には同じですね。つまりこの問題は『減衰振動型の方程式の解』を
利用した設問なんです。
是非とも質問<2274>と質問<2293>の解説を利用して③式の解が④式に
なるのを確認してみて下さい。非常に簡単に導き出せるハズです。
(註:e^(iθ)=cosθ+isinθに留意)

ここからは特に『高校物理を履修してる』って前提で話を進めます。もし履修経験
が無いのでしたら“そんなモンか”って“雑学”程度で捉えてください。
まず『単振動』ってのがどんなモノなのか?と言う話から始めます。取りあえず基本
であるニュートンの力学第2法則(運動方程式)から書きます。

・m*dv/dt=ΣF_(i)  (i=1,2,3・・・。またvもFもベクトル値。)

これは物理でもっとも基本とされる式で、意味は『質量mの物体にベクトルである
力Fiの総和が働くと物体mには力Fiの総和と同じ方向に加速度dv/dtが生じる』です。
幾分長ったらしいですね(笑)。まあ、人を殴ったら殴った方向と同じ方向に殴られ
た人はすっとぶぞ、と(笑)。当たり前ですよね。取りあえず力Fに付いては特に何も
言及していない『一般的な』式です。
次に来るのが『フックの法則』と言われるものです。この辺りの物理用語はホント
いい加減で(笑)、実はこれは『法則』って程じゃないんですが、コレは『バネの延長
(伸縮)方向とそれに拠って生じるバネの力との関係』に付いて簡略化して言及した
モノです。

・F=-kx・・・⑤

このトキ、kは『バネ定数』と呼ばれている、そのバネ、バネによって違う『固有の
値』です。⑤式(フックの法則)が言ってる事は『バネをある方向にxだけ伸ばすと逆
方向にkxだけの“反発力”が生じる』です。『どうしてそんな反発力が生じるのか?』
ってのはこの式は表してません(笑)。それは『量子力学』での話になるんで、いわ
ゆる『古典物理の範囲外』だからです。
取りあえずここで次の設定を考えてみます。
『ある地面に平行に固定されたバネに質量mの物体を括りつけて“滑らかな平面上”
でバネに平行に適当に決めた原点からx_(0)だけ好きな方向に引っ張って静かに手を
離す。するとどーなるか?』
ここで『滑らか』ってのは『余計な抵抗(力)が無い』って意味ですね。かなり理想化
された状況です。
『ニュートンの第2法則』とフックの法則を合わせて考えると、『物体m』に対しての
運動方程式は『お好きな方向』を+方向として、

・m*dv/dt=-kx・・・⑥

で書き表せます。ポイントとしては運動方程式でのΣF(力の和)の内容ってのは何で
も構いません。どんなFになるのか?ってのは設問の状況によって変わります。この問
題の場合はたまたまF=-kxって“単一の力のみ”が物体mに働いた、って事です。余
談ですが、ニュートンとフックは仲が悪かったそうなんですが、方程式上では特に仲
が悪いってワケでも無いですね(笑)。
さて、⑥式は次のように書き換えられます。

・m*dv/dt+kx=0
∴dv/dt+(k/m)x=0・・・⑥'

一般的にv=dx/dtである、って事に気付けば、この⑥'式は数学的には全く①式と同
じである、って事に気付く筈です。

・f"+(ω^2)f=0・・・①

ここで⑥'の一般解がどうなるのか考えてみて下さい。(と言うよりも②式に拠り
x=acosωt+bsinωtしか解になりません)そしてωが何なのか、考えてみて下さい。
単純に物体mはバネの伸び縮みに従って『ビヨンビヨン』と“永遠に”平面上を周期
的に『行ったり来たり』するハズです。このテの運動を『単振動』と呼びます。
さて、この問題にちょっと『イタズラ』を施します。普通に考えるとバネに従って
『永遠に』行ったり来たり、ってのはちょっとあり得ません。何故なら通常『色々な
抵抗(力)』ってのが物体mに働くから、です。ここでは『空気抵抗がある場合の』
物体mの運動について考えます。『フックの法則』による力をF_(1)として、それに対
して空気抵抗による力F_(2)を便宜上次の様に『速度に逆方向で比例する力』と簡略
化します。(ホントは違いますがね。)

・F_(2)=-bv

ここでbも適当な『比例定数』とします。
さて、ココで物体mに対して『運動方程式』を組むと、

・m*dv/dt=ΣF_(i)
        =F_(1)+F_(2)
        =-kx-bv
∴m*dv/dt+bv+kx=0・・・⑦

となります。
⑦式は御自分で解いてみてください。質問<2293>を参考にすれば解けると思い
ます。
ヒントとしては、『単純に減衰運動になるんじゃないの?』って思うでしょうが、
『一部だけ正解』です。と言うのも『bとkの大きさ』次第では減衰運動にならない
場合もあるんです。キチンと条件があります。単純に言うと『判別式』に拠る場合
分けの必然性が出てきます。これは面白いですよ(笑)。まあ『宿題』ですね。

さて、この類の『方程式』を『物理』では良く見かける、って話をしましたが、
もう一つだけ例を挙げます。それは『電気回路』で出てきます。
高校では次の3つの回路素子を扱います。

・抵抗R、容量CのコンデンサーC(今はキャパシターって言うのかな?)、自己インダク
タンスLのコイルL

電荷量をq、電流iをqの時間微分dq/dtとして、それぞれが持つ(負荷がかかったトキ
の)電圧を

・抵抗Rの電圧:Ri
・コンデンサーCの電圧:q/c
・コイルLの電圧:L*di/dt

とします。
まあ、この3つを色々と組み合わせて電源に繋ぐワケですが、今回は『直列回路』の
話をします。要するに上記の3つを単純に『直列に繋いだ』トキのお話ですよね。
さて、この『3つを繋いだ直列回路』ですが、実は高校範囲の物理は幾分トリッキー
です。と言うのも、『この3つを直列に繋いだトキ』のみ、電源は『必ず交流電源じゃ
なきゃいけない』って暗黙の了解事項があるんです。その場合の回路方程式を電源を
V_(0)sinω_(0)tとでもして書いてみましょう。

・L*di/dt+Ri+q/c=V_(0)sinω_(0)t・・・⑧

多分高校で物理取ってる人には御馴染みの方程式だと思います。一応『物理上の』
解法としては、数学的には『特殊解』となる、i=I_(0)sinωtと言う『電流』を
『仮定』して解く、ってのが定石です。
しかし問題は、『直流電源だったらどうすんの?』って事です。直流電源をE(定数)
として、

・L*di/dt+Ri+q/c=E・・・⑨

ってのが方程式になるんですが、コレは質問<2293>でやった『非同次』の線形
微分方程式です。(⑧式も実は“非同次の”微分方程式です)そして『高校範囲内の数
学知識』ではちょっと解けません。
解法としては質問<2293>でやった様に、同次方程式

・L*di/dt+Ri+q/c=0・・⑩

を設定してやって、『まず一般解を求める』って作業が必要になります。ついでに
⑨式は数学的には⑦式と同じです。よって場合分けに拠って、『減衰振動の場合』
もありますし、他の場合もあります。それによって『非線形微分方程式』である⑨
の『特殊解』も変わってきます。簡単な設問ですんで、是非ともこれを解いてみて、
『無味乾燥な数学の実用性』ってのを実感してみて下さい。『物理現象を数学って
のは“キレイに説明”するんだ!!!』ってのを分かればめっけもんだと思います。
ついでに⑧式がホントはどんな解を持つのか考えてみるのも一興です。
i=I_(0)sinωtって『仮定』は実用上あんまり問題無いんで愛用されていますが、
実は『数学的な解』は違うんです。一体『定常状態』って用語は何を意味するのか?
こんなトコでt→∞と言う『数学上の抽象的な概念』ってのが実生活上どんな『振
る舞い』をするのか、垣間見たりする事が出来ます。是非ともそれを実感して頂き
たいトコロです。

とまあ長々と(笑)数学とあんまり関係ない『物理』の話をしてしまいましたが、今回
の設問はこんな風なトピックと『関係がある』って分かって欲しかっただけです(笑)。
では設問に参ります。

>a,bは与えられた定数でabキ0とするとき
d/dx{e^(ax)(Acosbx+Bsinbx)}=e^(ax)cosbx
となるように定数A,Bの値を求めよ。

単純にこの問題は『合成関数の微分をせよ』って問題です。合成関数の微分はf、gを
それぞれxの関数として、

・(f*g)'=f'*g+f*g'

で表されます。
ここで、

・f(x)=e^(ax) g(x)=Acosbx+Bsinbx

とすると、

・f'(x)=ae^(ax) g'(x)=-bAsinbx+bBcosbx

となるんで、

・d(f*g)/dx=ae^(ax){Acosbx+Bsinbx}+e^(ax){-bAsinbx+bBcosbx}
     =(aA+bB)e^(ax)cosbx+(aB-bA)e^(ax)sinbx・・・⑪

となります。
つまり⑪式とe^(ax)cosbxが恒等式だ、って言ってるワケですね。

・(aA+bB)e^(ax)cosbx+(aB-bA)e^(ax)sinbx=e^(ax)cosbx・・・⑫

これはもう各関数の『係数』を比較すればオッケーです。それしかテがありません。
⑫式より、

・aA+bB=1・・・⑬ (e^(ax)cosbx同士の係数比較)
・aB-bA=0・・・⑭ (e^(ax)sinbx同士の係数比較)

ってのが条件です。
例によって行列に書き換えます。

 (  a b)(A) (1)
・(-b a)(B)=(0)・・・⑮

よって『クラメールの公式』より次の値が求まりました。

・A=a/(a^2+b^2) B=-b/(a^2+b^2)・・・答え

と言うワケで『何て事の無い』問題でしょ(笑)?一応

F(x)=e^(ax)(acosbx-bsinbx)/(a^2+b^2)

とでも置いてみて、与題を満たしてるのを確認してみて下さい。
余談ですが、

>a,bは与えられた定数でabキ0とするとき(って事はa≠0かつb≠0ってコトですね)

って条件が何の為に必要なんだかイマイチピンと来ませんがね(笑)。