質問<2470>2005/7/20
from=愛
「常微分方程式(大学の問題ですがお願いします)」


弾丸は厚さ12cmの板の表面に対して200m/sの速度で入射し、
60m/sの速度で裏面を貫通した。
弾丸に対する板の抵抗力Fは弾丸の速度vに比例するものと仮定し、
弾丸が板を貫通する時間およびその平均速度を求めよ。

★希望★完全解答★

お便り2005/7/21
from=亀田馬志


お、コレまるで物理の範囲の問題ですね。
『物理の問題』としては記述に色々問題がある様ですが、懐かしいので解説して行き
ます(笑)。まあ、確かに『数学の問題』でしょうけど、ニュートン力学的には『運動
エネルギー保存則』や『運動量と力積』利用して解ける可能性もあります。が、題意
が『常微分方程式』との事ですし、また『エネルギーや運動量の概念』説明するのも
まどろっこしいんで(笑)、解析的なアプローチで攻めてみようと思います。まあ、
『運動エネルギー保存則』や『運動量と力積の関係』なんてのは数学的に言うとニュ
ートン力学上は『原理』と言うより『定理』の範疇ですし、メンドくさい『物理的概
念』使うより、数学的に『原理に近い』アプローチで攻めて行った方がよりシンプル
でしょう。

毎度毎度ですが、微分方程式に関しては質問<2274>質問<2293>、それと
古典物理の力学での最重要式、ニュートンの第2法則(運動方程式)に関しては
質問<2333>を参照して下さい。ここで全部書くと長くなっちゃいます
からね(笑)。

さて、問題記述なんですが、この問題の場合、ホントのコト言うと、あまり物理とし
ては(かつ数学としても?)イイ問題ではありません。第一に物理では力や速度はベク
トル量で定義されてるんですが、この問題ではスカラー量として記述されてます。
細かい事言うと、この『弾丸』ってのがまっすぐ進んだ、って保証が無いんですね
(笑)。つまり『貫通した』って表現してても、まっすぐ突き抜けたのかどうか分か
りません。『地面に平行に』の一文があればまだ救われるんですがね。
第2にこの『板』なる物体が果たして地面に固定されてるのかどうか記述が一切無し
です。もし固定されてなかったら、普通に考えれば弾丸は板を貫通しません。と言う
のも、『弾丸と板は一緒になって』すっとんでいくからなんです。
と言うワケで次のように問題を仮定して見てみます。

『弾丸は地面に固定された厚さL mの板の表面に対して時間t=0の時に地面に平行に
v_0 m/sの速度で入射し、時間t=τの時にv_τ m/sの速度で地面に平行に裏面を
貫通した。
弾丸に対する板の抵抗力Fは弾丸の速度vに比例するものと仮定し、弾丸が板を貫通
する時間およびその平均速度を求めよ。』

この仮定で問題が解けます。では弾丸の質量をmとして、弾丸に働く運動方程式を記
述してみましょう。

・m*(dv/dt)=-F・・・①

以上です(笑)。簡単でしょ?
一つ注意点は力Fにマイナスが付いてるんですが、コレは『弾丸の進行方向と逆向き
に』力Fが加わっているからです。先程申し上げた通り、速度、加速度、力、っての
は全て『ベクトル量』なので『作用の方向』ってのが重要になります。今は『地面に
平行に』と言う設定なので、題意から『一次元での方向』ってのを考慮に入れたまで
です。
さて、ココで問題の記述に次の文章があります。

『弾丸に対する板の抵抗力Fは弾丸の速度vに比例するものと仮定』

ここで力Fってのがどう言った力かは分からないんですが少なくとも『弾丸の速度の
大きさ』に比例する、って事だけは分かっています。つまり弾丸の速さが大きければ
力Fも大きいですし、弾丸の速さが小さければ力Fも小さくなるワケです。想像付きま
したか?
そこで適当な比例定数をkとでもして、力Fを数式で表現してみます。

・F=k*v・・・②

②式を①式に代入すると、

・m*(dv/dt)=-k*v・・・①'

これで準備は終了です。と言うか『物理としての作業』は全て終了致しました。アト
は『数学の範疇』です。ここまで出来れば駿台の坂間さんだったら『物理のテスト』
で90点はくれるでしょう(笑)。
①'式を書き換えると、

・m*(dv/dt)+k*v=0・・・①"

となり、数学的にはコレは単なる『1階同次常微分方程式』です。題名にもあります
よね。両辺をmで割り、微分演算子を利用して書き換えると、

・{(d/dt)+(k/m)}*v=0・・・①"

故にλ=k/mとして、積分定数をAとして①'の一般解は、

・v=Ae^(-λt)・・・③

となります。

i)初期条件を考える。

さて、数学的には③式求められれば充分なんですが、物理では『初期条件』とか『境
界条件』と言われるモノを考えます。と言うのも、古典物理の思想では『ある時点で
の物体の運動の状態が分かれば未来永劫に渡ってその物体の運動の変化を予測出来る』
ってのがあるからです。
『初期条件』と言うのはこの問題の場合、

『時間t=0の時に地面に平行にv_0 m/sの速度で(板に)入射』

って事です。単純にt=0のトキ、v=v_0って事ですよね。コレを③に代入します。

・v_0=Ae^(-λ*0)
∴A=v_0・・・④

これで積分定数Aの値が分かりました。④を③に代入して

・v=(v_0)*e^(-λt)・・・③'

ってのがこの問題の場合、Exactな『瞬間速度の式』になります。

ii)移動距離を求めてみよう

速度と移動距離の数学的関係は常に

・移動距離-(時間で微分)→速度
・速度-(時間で積分)→移動距離

です。この関係は『数学的関係』なんで、常にアタマに入れておいて下さい。これは
『暗記して』構いません。暗記だとしてもそれは『物理の責任』じゃなくって『数学
の範囲』です(笑)。なんせ『公理関係』なんで(笑)。
つまり、③'式を『時間で積分』すれば移動距離が求まるワケです。

・x=∫(v_0)*e^(-λt)dt・・・⑤

さて、先程の『初期条件』のハナシですが、実は問題を読めば次の条件が書き込まれ
てるのが分かります。つまり、入射した地点をx=0とすると、

・t=0のトキ、v=v_0でx=0
・t=τのトキ、v=v_τでx=L

になってるんです。ココで貫通地点はx=Lなので、弾丸の入射地点から貫通した地点
までの移動距離は④式を定積分のカタチに書き換えると

・L=∫_0^τ (v_0)*e^(-λt)dt
 =-(v_0/λ)*e^(-λt)|_0^τ
 =-(v_0/λ)*e^(-λ*τ)+(v_0/λ)*e^(-λ*0)
 =(v_0/λ)-(v_0/λ)*e^(-λ*τ)・・・⑤'

となります。と同様に、③'式で貫通地点での終端速度を求めると

・v_τ=(v_0)*e^(-λ*τ)・・・③'

現時点で未知の数値はλとτの2つです。そして③'と⑤'を連立して解けばこの未知
定数が求められそうです。よってクラメールの公式に持ち込む為に共通の定数に着目
して行列化します。

 (1 -1/λ)(      v_0/λ    ) ( L )
・(0    1 )((v_0)*e^(-λ*τ))=(v_τ)

コレを解くと

・λ=(v_0-v_τ)/L・・・⑥
・τ={L/(v_0-v_τ)}ln|v_0/v_τ|・・・⑦

⑦式はそのまま『弾丸が板を貫通するに要した時間』を表しています。
また今までは微分を使用して『瞬間速度の式』を用いて論議を進めてきましたが、

      『平均速度を求めよ。』

と言われています。これは数学的には中学校で習った『平均の傾き』の事です。
つまり単に

・『平均速度』=『移動距離』÷『移動にかかった時間』
       =L/τ

を求めよって事です。これも⑦式を変形するとすぐに出ますね。

・τ={L/(v_0-v_τ)}ln|v_0/v_τ|
∴L/τ=(v_0-v_τ)/ln|v_0/v_τ|・・・⑧

以上です。
ちょっと難しかったかな?まあ、まだ分かんないトコあったらまた質問してみて下さ
い。

数値解:物理では『文字式で解く』ってのが定石なんで、数値使わずに論法展開しま
したが、改めて数値を『最後に代入』しておきます。

・弾丸が板を貫通する時間={L/(v_0-v_τ)}ln|v_0/v_τ|
            ={0.12m/(200m/s-60m/s)}ln|200(m/s)/60(m/s)|
            ≒0.001031977s

つまり弾丸が板を貫通するまでの時間は約0.001秒弱。

・弾丸が板を貫通する平均速度=(v_0-v_τ)/ln|v_0/v_τ|
              =(200m/s-60m/s)/ln|200(m/s)/60(m/s)|
              ≒116.2816963m/s

つまり弾丸は平均では大体116(m/s)で突き進んでいます。
そしてL=平均速度×τの関係があるので、

・L=116.2816963m/s×0.001031977s
 ≒0.12m
  =12cm

と題意を満たしてるのを確認するのを忘れないコト。


お便り2005/7/22
from=苦労人


題意より比例定数をA*mとすると抵抗力Fは進行方向を正とすると
F=-Amv [N]
またFを加速度aで表すとF=maより
ma=-Amv
a=-Av [m/s^2]
加速度aはa=dv/dtより
dv/dt=-Av
(1/v)dv=-Adt
cを積分定数、またlog_eをlnとし、積分の公式(1/x)dx=ln(x)より
ln(v)=-At+c
ln(v)=ln[e^{(-At)+c}]
ln(v)=ln[{e^(-At)}(e^c)]
e^cをCとすると
v=Ce^(-At)
となる
ここで初期値t=0[s]でv=200[m/s]
通過した時間をt1とするとt=t1[s]でv=60[m/s]なので
v(0)=Ce^(-A*0)=C=200
v(t1)=Ce^(-At1)=200e^(-At1)=60
e^(-At1)=60/200=3/10
また、0→t1で鉄板の厚さ0.12[m]進むのだから
距離lをvで表すと
l=∫_0^t1 v(t)dt=0.12 …0-t1で定積分
l=∫_0^t1 200*e^(-At)dt=0.12
l=[(-1/A)*200*e^(-At)]_0^t1=0.12
l=(-200/A){e^(-A*t1)-e^(A*0)}=0.12
l=(-200/A){e^(-A*t1)-1}=0.12
e^(-At1)=3/10なので
l=(-200/A){3/10-1}=0.12
l=(-200/A)(-7/10)=0.12
l=140/A=0.12
A=140/0.12≒1166.7
∴v(t)=200e^(-1166.7t)

通過にかかった時間t1は
e^(-At1)=3/10
e^(-1166.7t1)=3/10
-1166.7t1=ln(3/10)
t1=(-1/1166.7)ln(3/10)
t1=1/1166.7ln(10/3)≒1.03*10^(-3)
∴通過にかかった時間は 1.03[ms]

平均速度をvaとすると速度を積分し、かかった時間で割ればいいから
va=(1/t1)∫_0^t1 v(t)dt
先ほどの計算結果から積分の部分は距離lなので
va=0.12/{1.03*10^(-3)}≒116.5
∴平均速度は116.5[m/s]